「いっくぞー、とりゃー!」
夏祭り――大人も子供も関係なく、たくさんの人たちが楽しむ夏の風物詩。
その会場の一角で、元気に遊ぶかわいい少女の姿が見えた。
「あちゃー、失敗。
もー! ポイってなんでこんなに脆もろいの?」
破れたポイを残念そうに眺める、猫の耳と尻尾を持つ少女。
彼女は式の式、妖獣の橙。
化け猫である彼女は泳ぐ金魚たちに視線を集中させ、せわしなく頭を左右に振っている。
猫の本能なのか、子供っぽく純粋に気合が入っているのか、新しいポイを片手に袖をまくる。
「むー、こんなうっすい紙で魚をとろうなんて……
でも、猫が魚に負けるわけにはいかない!
藍様に金魚をプレゼントするためにも、
絶対にすくってみせるんだから……っ!」
主あるじへの善意、そして獲物を狙う肉食獣としての本能が、金魚に鋭く突き刺さる。
その姿は見る人たちを優しい笑顔にするほどに純真無垢じゅんしんむくだった。
「よっ、っと……はい、一匹目!
コツがわかってきたかも……
こう、すれば……はい、二匹目!
藍様の式として、
ありったけの金魚を獲ってみせますよー!」
はたして、彼女のポイに穴があくころには、何匹の金魚がすくわれているのだろう。