命蓮寺の住職、聖白蓮といえば、自分にも他人にも厳しいことで有名だ。
しかし、彼女がいくら厳格とはいっても、お祭りのときは舞い上がるもの。
「みなさん、本当に楽しそう……
これは、私も気兼ねなく羽を伸ばせますね」
巾着を片腕に通し、華やかな浴衣ゆかたに身を包んだ今の白蓮は、普通の少女にしか見えない。
「あ、りんご飴あめが売っていますよ。
ちょっと待っていてくださいね」
浴衣ゆかたの袖を揺らしながら、白蓮は屋台に近づいていく。
買い物から帰った彼女の両手には、それぞれ一本ずつのりんご飴あめが握られていた。
「一本だけ買うつもりだったのですが、
もう一本おまけしてもらっちゃいました。
でも、ほかに食べたいものもありますし……
ひとりじゃ、ちょっと食べきれないかも……」
むむむ、と口をとがらせる白蓮。
しかしすぐに解決策が思いついたのか、彼女はりんご飴あめを一本、差し出してきた。
「あなたにはいつもお世話になっていますから、
お分けしますね。
……はい、どうぞ。あーん」
笑いかけながらりんご飴あめをこちらへ向けてくるその姿や仕草は
大いなる思想者でも偉大なる魔法使いでもなく、ありふれた幻想郷の少女そのものだった。