笹の節句、七夕たなばた。 日本では、引き離された男女が年に一度だけ会うことが許される、という伝承がある。 また別の場所では、古代の王子がこの日に亡くなったことから、 無病息災むびょうそくさいを祈るなど、いくつかの逸話が存在する。 流れ着いたさまざまな行事も、由来も知らず関係なく乗っかっていくのも、なんとも幻想郷らしい。 祭りごとや面白い事象ならば、だいたいの人たちはそれに乗じて集まり、そして楽しむことだろう。 博麗神社の巫女みこである霊夢もまた、七夕たなばたという行事に今まさに乗っかろうとしていた。
「願いを書いた短冊を笹に飾る…… たったそれだけで願いが叶うなら
苦労はないんだけどね」  
天女を模した衣装を身にまとい、大きなため息を吐く霊夢。 今宵こよい、彼女が管理する博麗神社は、彼女のあずかり知らぬところで 勝手に宴会会場として指定されてしまっていた。 宴が始まれば、きっと参加者たちの相手で忙しくなる。 だからまだ誰もいない、始まったばかりの夜のひと時に、霊夢はひとりで七夕たなばたを楽しむことにした。
「ま、願うだけならタダだしね。 そもそも無条件で願いを叶えてくれるような
心優しい神様がいないことぐらい、
いやというほど分かっているし」  
顔見知りたちの顔を思い浮かべて肩をすくめつつも、 霊夢は自分の願いを添えた短冊を笹にそっと飾るのだった。