それは、澄み渡る空と、雄大な大地が広がる唯一無二の場所。
壮大で風光明媚ふうこいめいびな天界の浮島に、彼女たち二人の姿はあった。
美しい緋色の羽衣を風になびかせ、優雅にたたずむ竜宮の使い――永江衣玖。
彼女は穏やかな表情で、身体からだを撫でる風と浮島からの景色を楽しんでいる。
「こうして、静かに風を
感じられる時間はいいものです。
総領娘そうりょうむすめ様もそうは思いませんか?」
「まっっったく共感できないわ。ただ立って
風を感じるだけなんて、退屈以外の何物でもない」
そんな衣玖とは対照的な表情を浮かべているのは、衣玖の隣に立つ少女――比那名居天子。
緋想ひそうの剣つるぎを浮島へと突き立て、仁王立ちしている彼女の顔には、
どういうわけか不敵な笑みが浮かんでいる。
「老人染みた枯れた感慨に
ふけっている時間はもったいない。
そんなことより、
早く計画を行動に移そうじゃないか」
「本当にやるんですか?
またお説教されることになっても、
私は知りませんよ?」
「お説教が怖くて暇つぶしなんて
やってられるもんか」
風でなびく髪を手で押さえることもせず、天子はただひたすらに地上を鋭く見下ろす。
海になってしまった雲を利用した、天界ビーチ。
そこに招待するお客様をこれから地上に探しにいくつもりなのだ。
「天界でも地上ぐらい楽しめるんだってことを、
下々の者に教えてあげなくてはね!」