「いつもより早く飲む酒は格別だなーっ!」   夜雀が経営する評判の屋台、その一角で 伊吹萃香はヤツメウナギの串焼きを食べながら、瓢箪ひょうたんの中身を喉に流し込んでいた。 そんな萃香に、いつも飲んだくれてるじゃないですか、と店主が指摘を入れると、 萃香はそれはもう楽しそうに自前の瓢箪ひょうたんを振り回し始めた。
「こういうのは気分の問題なんだよ、気分のね! そんな些細ささいなことが気になるなんて、
酒が足りていない証拠だよ。
ほぉら、あんたももっと飲んだ飲んだ!
私の酒をたくさん飲みなーっ」  
苦笑いとともに差し出される店主のお猪口ちょこに、 萃香は酒の尽きない瓢箪、伊吹瓢いぶきひょうからとくとくと注ぐ。
「ん? どうしたんだ? よそ見をして……
ああ、こいつが気になるのか」  
二人の視線の先には、身体に電気を帯びている不可思議な生き物がいた。   「こいつは雷獣といってね。
頼まれてちょっと預かってるんだよ。
で、こいつの主人がここに迎えにくる
予定になってるんだ。言ってなかったっけ?」
首を傾かしげる萃香に、店主は再び苦笑を返す。   「いやあ、それにしても、懐かしい相手と
いつでも飲めるってのはいいもんだねえ」  
萃香はどこかいつもより楽しそうな様子で、これから来る人物を待つのであった。