小さな身体からだでやれることなど、そう多くはない。 しかし、小人族の末裔まつえい少名針妙丸にとって、それはなんの言い訳にもなりはしない。   「今度こそ、獲ってみせるんだから……っ!」   覚悟を決めた眼差まなざしでにらみつけるは、キラキラ輝く川の水面みなも。 針を片手で構え、彼女は勢いよく跳躍し、そしてそのまま川の底へと身体からだを沈めた。 穏やかな流れを逆行し、進んだ先にいたのは、彼女と同じ大きさのナマズが一匹。 どこぞの天邪鬼にも似た風貌のそれに、針妙丸は固唾を呑む。 すでに何度も敗北を喫している強敵だ。力、重量、そのすべてで負けている。 だからといって、「はいそうですか」と諦めきれるわけがない。 特に針妙丸は、身体の大きさを言い訳に負けを認めるのが大嫌いなのだ。
「そろそろ疲れきってるはず……
やるなら今しかない……っ!」  
針を振りかぶり、ナマズの腹部に深々と突き刺す。 当然、ナマズは抵抗を始め、水中で一対一の決闘が開始される。 ――水しぶきがおさまったころ、針妙丸は水面に顔を出した。 彼女の針の先には、白目をむいたナマズの姿が。 そう、彼女は激戦の末、ついに宿敵に勝利したのである。
「よーっし、ナマズ獲ったどぅぉーっ!」   戦果を掲げて大喜びする針妙丸だが、 その一瞬の隙を突かれ、ナマズには結局逃げられてしまうのだった。