「うぅ……お腹がすきすぎて、
石ころがお饅頭に見えてきた……」  
激しく流れる渓流、頭の上には燦燦さんさんと輝くお日様が一つ。 そんな立っているだけで体力を奪われてしまいそうな河原の一角で、 依神紫苑は拾った枝に火をつけるべく、火打ち石をカチカチ打ち鳴らしていた。   「や……やったぁっ、火がついた!
消える前に、火を広げないと……!」
やっとの思いで作り上げた種火に葉っぱや枝などを投入していく紫苑。 そのあまりにも必死な形相には、当然ちゃんとした理由がある。   「苦労して手に入れたナマズを焼いて食べるんだ。 かれこれ何日も、何も食べてないの。
このチャンスを逃すわけにはいかないわ……っ!」  
魚籠びくに入ったナマズを見下ろしながら、垂れそうになるよだれを拭い、火起こしに専念する紫苑。 そんな努力のかいあって、種火を大きなたき火に成長させることに無事成功した。
「ふふふ。このナマズ一匹で、
私はこの一週間を乗りきってみせる……っ!」  
施しがないなら、自分で調達するしかないのは貧乏の定め。 自力で食料調達、自給自足なサバイバル生活ぐらい、紫苑にかかれば朝飯前なのだ。   「早く焼き上がらないかな……
うぅ、よだれが我慢できないよぉ……」  
数日ぶりのごちそうのできあがりを今か今かと待ちながら、紫苑は必死に空腹と戦うのであった。