龍の世界と人間の世界。
その狭間はざまに住む竜宮の使いと呼ばれる妖怪こそが、永江衣玖の正体である。
龍神の言葉の中から重要な情報のみを抜き取り、人々に伝える。
そんな仕事を与えられている衣玖ではあるが、さらに天人、比那名居天子のお目付役も任されている。
「総領娘そうりょうむすめ様のお目付役とはいいましても、
私ひとりで制御できるような御方ではありません。
私はせいぜい、後ろで見守るのが関の山。
まあでも、お目付役なんてそういうものですから」
あくまでも自分の仕事は龍神の言葉を伝えること。
比那名居家に仕える者ではあるが、彼女にとってそこはあまり重要ではないのかもしれない。
「そもそも、総領娘様は
少々甘やかされ過ぎだと思います。
彼女が立派な天人になるまで世話をするのも私の
お役目ではありますが、それはそれ、これはこれ。
どこぞの巫女みこや魔法使いによって
総領娘様が痛い目を見ることになろうとも、
私は決して止めはしません」
「心が痛まないこともないですが、
たまには反省してもらいたいですし。
彼女が心を改めて私の負担が減るのであれば、
多少のおいたは見逃す次第でございます」
お役目と自分の立場を見極め、臨機応変に対応する。
それこそが、さまざまな責を負わされている彼女なりの、健全に生きるコツなのかもしれない。