妖怪の山のどこかに屋敷を構え、修行に励む仙人がいる。
時折、人間の里に現れることもあり、隠者ながら里の人間にも知られている彼女の名は茨木華扇。
なまける者がいればありがたい説教を行い、そして困っている者がいれば手を差し伸べる。
そんな生真面目で心優しい姿は、まさに人々が思い描く仙人様そのものだ。
――が、しかし。
自他ともに厳しい、仙人らしい仙人である彼女とて、いつだってお堅いわけではない。
「うーん、快適。派手過ぎるのもどうかとは
思ったりしましたが、これはこれで悪くない。
何よりこの浮き輪というのはいいですね。
とても楽です、素晴らしい」
大きめの浮き輪に楽な姿勢で座り、さまざまな色の光に照らされる仙人様。
片手には虹色のサマードリンクが入ったグラスを持つその姿は、
誰がどう見ても全力で夏を謳歌おうかしているようにしか見えない有様であった。
「たまには自分を労いたわってあげないと。
いくら無敵の仙人だって心が疲弊するものです。
……こんなの霊夢に聞かれたら、
言い訳するなーとか
ずるいーとか言われそうだけど」
蒸し暑い幻想郷の夜に、人知れずひっそりと、そしてゆっくりと。
お一人様用、彼女だけの避暑地にて、華扇はひと時の余暇をエンジョイするのであった。