紅魔館こうまかんの主あるじ、レミリア・スカーレットはいつだって無理難題を押しつけてくる。
月に行きたい、幻想郷一美味しいスイーツが食べたい、誰々と今すぐ弾幕勝負がしたい、などなど。
しかし、主あるじの望みを叶えることこそ、メイド長としての責務。
だから、今回の無理難題も叶える以外の選択肢はない。たとえ、どんな結果になろうとも。
「咲夜。私も天界ビーチに行きたいわ」
主あるじからのそんな注文に、十六夜咲夜は一瞬、ほんの一瞬だけめまいを覚えた。
天界ビーチ。その名の通り、天高くに存在するビーチのことである。
最近、幻想郷でかなり有名になっており、レミリアも時折興味を示してはいた。
実は咲夜のほうが、先に天界ビーチへ足を運んでいる。そのロケーションの素晴らしさも知っていた。
いつかは来るだろうなと思っていた注文。それが今、ついに現実のものとなったのだ。
――だが、二つ返事で了承できない理由がある。
「お言葉ですが、お嬢様。
日光対策はどうするおつもりで?」
「そんなの、パラソルがあれば
なんとかなるわよ。ねえ、フラン?」
「その通りよお姉さま。それに、最近は外で
遊んだりもするもの。少しぐらい我慢できるわ!」
自信満々のスカーレット姉妹。そうまで言われてしまっては、もう頷うなずく以外にできることはない。
「分かりました。では、すぐに天界ビーチへ
向かうための準備を進めさせていただきます」
メイド長はありとあらゆる注文に応え、期待以上のサービスを提供する。
たとえそこが地底だろうが天界だろうが、彼女のやることは変わらない。