「斬れぬものなど、あんまりない」
そう口にするのは、白玉楼はくぎょくろうに住む剣術指南役兼庭師を務める魂魄妖夢こんぱくようむ。
幼く未熟ながらも、その剣術はまさに一流。
楼観剣ろうかんけんと白楼剣はくろうけん、二刀が描くその軌跡は、
時には、天狗てんぐよりも素早い太刀筋たちすじとなり、
時には、幽霊十人分の切れ味と相手の思いを断ち切る一撃必殺の技となり、
時には、幻想郷をおびやかす存在を排除することにもなるだろう。
「白玉楼はくぎょくろうの平和、
そして幽々子ゆゆこ様の安全をお守りすること。
それが私のお役目ですから。
え、家事? 当然、それも私の役目です。
幽々子様は、その……家事が苦手なので」
剣術だけでなく、主の世話すらも完璧である妖夢だが、本人は自分に未だ満足していない。
「私の剣はお師匠様にすらまだ及びません。
落葉すらを両断する、あの剣には、まだ。
剣術指南役として、高みを目指すための
努力を欠かすなど、ありえません」
どんな壁も、どんな敵も両断する、圧倒的な剣術。
師の背中を追ってか、自らの太刀筋たちすじに満足を覚えていないせいか、
彼女は今日も、刀を振ることをやめない。