宮古芳香みやこよしかに、人間として生きていたときの記憶はない。 あるのは、霍青娥かくせいがによって蘇生そせいさせられた後の、キョンシーとしての記憶だけだ。   「うがー。私は、この崇高な霊廟れいびょう
まもるために生みだされた戦士である!」  
自分の意思など、彼女にはない。 青娥から命令されたことを、ただ従順にこなすだけ。 それだけが、青娥の忠実なるしもべ、宮古芳香に与えられた存在意義である。
「うーん? でも、どうしてここを
護らないといけないんだっけ?
そもそも、この中には何があるんだー……?
うーん、うーん」  
脳が腐っている彼女の知能は、それほど高くはない。 いいや、むしろ低いと言える。与えられた役目の理由すらも、すぐに忘れてしまうほどに。
「わからん、わからーん!
思いだせないことはもうしょうがなーい!
とにかく、ここは通さないぞー!」   邪仙じゃせんによって与えられた、第二の生。 いいように使われていることはわかっているが、拒もうという気はない。 彼女はキョンシー。霍青娥の忠実なるしもべ。 主の命令に従うことこそが、彼女の存在意義なのだから。