役目を終えた芳香は、次の役目を与えられるまで、土の下で眠ることになっている。 なぜそうなっているのかは彼女も知らない。ただ、言われたとおりにしているだけだ。   「……むー? なんだ?」   今日も今日とて次のお役目を待つべく土の中で眠ろうとした芳香の耳に、詩が聞こえた。 それは、芳香の唇から無意識に紡がれる詩だった。   「私、どうしてこんな詩を知ってるんだー……?」
腐りきった脳で思い出を探るが、該当する記憶にたどり着くことはできなかった。 もう少し、あともう少し考えれば……芳香は必死に首をひねるが、 それを遮るように、冷たい土が上から被かぶせられた。  
「寝る前に考えごとをすると、 眠れなくなっちゃうわよ?」  
「なー青娥。私はどうして詩を詠うたってたんだ?」
「さあて、なんのことかしら? いいから、今日はもう目を閉じなさい。 すぐに次のお役目が来るんだから、 身体を休めておかないと」  
「うー。確かにそうだなー。
……うぶ、苦しいぞ、青娥」   「ふふっ。ごめんなさい」
文句を言う芳香に謝りつつも、青娥は土をかけることをやめない。 すっかり身体が土で埋まってしまった芳香に、青娥は優しく声をかける。  
「おやすみなさい、芳香ちゃん」  
「うぶ……うー、おやすみー」   いつもの笑顔を見せる青娥にあいさつをした芳香は、 すぐに詠うたっていた理由も忘れ、幸せそうに眠りへと落ちていった。