「……まさか、こんなところに
土足で踏み入ってくる者がいるとはね」   「ふふふ。面白いじゃない。そういう愚かで 命知らずな行為、私は嫌いじゃないわ」  
純狐じゅんことヘカーティアが潜む夢の世界。 その静寂を破ったのは、完全無欠の侵入者だった。
「愚かで蛮勇。だが、その威勢のよさだけは
認めてやらなくもない。
それに、せっかくここまで来てもらったんだ。 もてなしのひとつぐらいは
してやってもいいだろう」
「あら、よかったじゃない。 純狐が歓迎してくれるなんて、 そうそうないわよ?」  
嫦娥じょうがを討つという共通の目的を掲げていることで、協力関係を結んでいる二人。 しかし、彼女たちは旧知の仲のように軽口を叩たたき合っていた。
「さあ、どのように歓迎してやろうか。 我々の安寧をおびやかしたんだ、それ相応に
痛い目を見てもらうのがやはり適切だろうか?」   「そうね。私たちの前に堂々と 姿をさらした豪胆さは評価に値するけれど、 不法侵入はさすがにいただけないもの。 ちょっとした罰ぐらいは 受けてもらってもいいかもしれないわ」
「そういうわけだ。 貴様に言いたいことがあろうとも、
聞く耳は持たない。
せいぜい、できるかぎりの抵抗をするがいい」