日本古来の文化を維持し、神秘を守り続ける異郷――幻想郷。
そこに最近、アイドルやDJという新しい文化が、外の世界から持ち込まれた。
新しい文化といっても、それに馴染なじめない者だって当然存在する。
急に現れた新しい文化を好む者と、古い文化を良しとする者たち。
相容れない正反対の考えを持つ者たちは、幻想郷のあちらこちらで喧嘩けんかを繰り返していた。
「小さなことで諍いさかいを起こすだなんて、
なんて時間の無駄なんだ」
人間たちの争いの噂うわさを小耳に挟んだ摩多羅隠岐奈またらおきなは何を思いついたのか、
部下の二童子たちに声をかけ、急遽きゅうきょ、特殊なライブを敢行した。
「難しいことなんて考えず、
とにかく盛り上がろうじゃないか!」
能楽のうがくを好む者、そして新しい音楽を好む者、
どちらも同時に虜とりこにする和洋折衷の旋律を、隠岐奈はDJとして巧みに繋いでいる。
「音楽とは読んで字のごとく、音を楽しむもの。
それ以上でもそれ以下でもない。
どこを掘ってもただの娯楽だ、
そんなものに争いや語らいなんて必要ないだろう」
争っていた人々の心に、彼女のMIXは深く浸透した。
「……ほう? あの人間たちは……
ふふ、やればできるじゃないか」
ライブで盛り上がる人間たちの中に、先日争いを起こしていた者たちの姿を見かけ、
隠岐奈はそれはもう満足そうな笑みを浮かべるのであった。