純狐じゅんこという存在がいったいどういうものなのか。
それを説明できる言葉は、この世界には存在しない。
怨うらみに純化された霊であり、自らが何者であるかという情報すら必要なくなっている。
彼女の怨うらみの根源にあるのは、夫に息子を殺されたという、純粋なる復讐心ふくしゅうしん。
しかし、すでにその怨うらみは純化の果てへとたどり着き、独り歩きしてしまっている。
息子を失った無念を晴らす、ただそのためだけに生きてきた、純狐。
月の民であり月の女神ともされている嫦娥じょうがが、自分の夫の関係者だと知るや否や、
嫦娥が住む月の都を襲撃。ついには侵略までもを開始してしまう。
「死を恐れよ、命を惜しめ。
人間も妖怪も、月の民も……
危機を感じ、我にひれ伏すがいい」
常に怒いかり、常に怨うらむ―その姿から、気難しい性格だと思う者も多い。
しかし、ぞんざいで率直な性格とは裏腹に、人道的な側面も併せ持っている。
「月の都を侵略しようとしたのは、たしかに私だ。
……だが、それで月の連中が幻想郷へと
侵攻しようとするのは、
道理が通らないのではないか?」
純狐という仙霊せんれいの在り方を理解できる者は、そう多くはない。
彼女がその膨大すぎる怨うらみを捨て去りでもしないかぎりは――。