――飯綱丸様は働きすぎです。少し、休暇をとられては――――
天狗てんぐたちの大将としてせわしなく活動をしている飯綱丸龍いいずなまるめぐむは、
その働きぶりを見た部下たちから咎とがめられてしまった。
上下関係の厳しい天狗てんぐ社会。
部下が上司に口答えするなどもっての外ほかだが、
さすがに親切心からの忠告を無視するわけにはいかない。
そういうわけで、龍は普段の疲れを癒すため、軽い休暇をとることにしたのだった。
「休暇とはいえ、
どのようにして過ごすべきだろうか。
まだまだ仕事は山積みなのだが……」
中間管理職とも呼ぶべき立場にある彼女は、常に大量の仕事に追われている。
寝る間も惜しんで働くことは当たり前で、仕事をこなすことこそが彼女の生きがいだ。
しかし、部下に休むといった手前、こっそり隠れて仕事をするわけにもいかない。
休まない上司ほど、部下の迷惑になる存在はいないのだから。
「仕方がない。
今日一日は、酒でも飲んで過ごすとしよう。
酒だけでは物足りんから、
料理を用意せねばならないが……」
普通なら部下に用意させるところだが、せっかくの機会。
料理は気分転換にもなるというし、たまには自分で作るというのも悪くはない。
どんなおつまみを用意しようか――軽い足取りで、龍は台所へと向かった。