白狼天狗はくろうてんぐの仕事は、なにも山を見回ることだけではない。
山の警備――その仕事の中には、当然、妖怪の山に足を踏み入れた愚か者の排除も含まれている。
「道に迷ったのであれば、
すぐに後ろを向いて引き返しなさい。
この先は我々、天狗の領域。許可なき者は
何人なんびとたりとも通すわけにはいきません」
剣先を相手に突きつけながら、
白狼天狗はくろうてんぐの犬走椛いぬばしりもみじは視線に乗せた敵意をぶつける。
「引き下がらない、と……つまり、悪意をもって
この山にやってきた外敵である、と判断します。
天狗てんぐにあだなす者への対応はたったひとつ。
――さあ、辞世の句を読みなさい」
幻想郷に星の数ほど存在する妖怪の中でも、天狗てんぐは特に縄張り意識が強い。
その警備を任せられた白狼天狗はくろうてんぐは、相手がどれだけ強かろうとも、自らの責務を全うする。
「今さら首こうべを垂れても遅いです。
私は一度、警告をしました。
そしてあなたはそれを無視した。
裁定はすでに下っています」
椛の言葉に耳を貸さず、侵入者は彼女に襲いかかった。
しかし、椛は顔色ひとつ、眉ひとつ動かさない。
ただ、持っている大剣を振りかぶり、縦一直線に侵入者を両断する。
「……来世では、人の話をよく聞くように」
妖怪の山に無断で立ち入ってはならない。
少しでも、己の命が惜しいのならば――。