「天狗てんぐの縄張り意識の強さを知ってるかしら?
知らないのであれば、
せっかくの機会ですのでお教えしましょう」
射命丸文しゃめいまるあやは笑顔を崩さず、ただ淡々と、自分たちの本質についての言葉を紡ぐ。
「妖怪の山、我々天狗てんぐの領域に
土足で踏み入る愚か者がいたら、
どうすると思いますか?
答えは簡単。一切の容赦なく叩たたき潰し、
その者には土に還ってもらう」
風が吹く。射命丸文を中心に、暴風が吹きすさぶ。
「領域とは、物理的なものに限らないわ。
先ほどのあなたのように、私に失礼な
態度をとること――それもまた、領域侵害」
彼女には一縷いちるの隙もなく、敵意だけが瞳に浮かんでいる。
そう、天狗てんぐが怒りを覚えた時点で、その者に未来などないのだ。
あるのは、自分が犯した過ちを後悔する時間だけ。
その時間すらも、そう多くは与えられないのだが……。
「おしゃべりはここまでにしましょう。
私はもう、自分を抑えることができません。
天狗てんぐのプライドを傷つけたあなたの所業、
その身をもって償うがいい!」
妖あやかしの憤怒ふんぬは、竜巻となって周囲一帯を呑み込んだ。
その後、愚か者がどうなったのか――わざわざ語るまでもないだろう。