八雲藍やくもらんの朝は早い。
「さて、と……今日の献立を考えないとな」
なぜなら、主である八雲紫やくもゆかりの朝食の準備を行わなければならないからだ。
しかも今は、藍の式である橙ちぇんも遊びにきている。
三人分の食事を用意するともなれば、それなりの時間がかかってしまうのは当然のことだった。
「時間もないし、簡単なものでいいだろう」
頭の中でほど良い献立を考え、そして調理を開始する。
紫の式として何年も何十年も料理を作ってきたせいか、その段取りに無駄はない。
主食には白米、副菜にはみそ汁と油揚げの甘辛煮、
そして主菜には漬物を添えたサンマの塩焼き――それが今日の献立だ。
みそ汁にも藍の好物である油揚げが入っているが、そこはご愛敬あいきょう。
朝食を準備する者の特権として、このくらいは許されてもいいだろう。
「今のうちに夕食の仕込みも済ませておくか
……うん?」
七輪でサンマを焼いていた藍は、ふと、何者かが台所へ近づいてきていることに気づいた。
その正体を察した彼女は思わず頬を緩ませながら、
「橙。朝食の準備を手伝ってくれるかい?」
照れくさそうに陰から姿を現す従者に、おかずの盛られたお皿をそっと手渡すのだった。