素敵な夢はいつまでも続いてほしい。 そう願うのは、人も妖怪も関係ない。 しかし、夢には必ず終わりがある。無限に続く夢は、死んでいることと変わらない。   「私はそれでも構いませんが、
この子はそのつもりではないようですし」  
胎児のように丸くなったまま、まどろんでいる菫子すみれこ。 放っておけば、このまま静かに目をつむり、深い眠りにつくことだろう。 夢の世界での眠りは、現実世界での目覚めを意味する。 つまり、このまま菫子が眠ってしまえば、同時にこの夢は終わりを迎えるのだ。
「私にとっては永遠の夢ですが、この子にとっては
思いだすこともできない泡沫ほうまつの夢。
ですが、それでいいのです。
夢は現うつつと離れたときにだけ見るものなのですから」  
菫子の夢が終わってしまったら、次の夢を見回りにいけばいい。 これほどまでに素敵な夢はそうそうない。もしかしたら二度と見られないかもしれない。 しかし、ただの一度だけでも、こんな夢を見せてくれた。 それだけで、ドレミーは菫子に感謝しようと、心の底から思ってしまった。
「さあ、起きなさい、外の世界の眠り姫。 そしていつかまた、
私に素敵な夢を見せてください」  
ドレミーは菫子を優しく抱きよせ、夢を終わらせる手助けをするのだった――。