時は戻らない。そして、止まることもない。 ありふれた、自然の摂理である。   「こーんな砂時計の
ひとつやふたつくらいだったら、
能力なんかなくても
簡単にひっくり返せるのになあ」
鬼人正邪きじんせいじゃは手の上に乗せた砂時計を、ただぼんやりと見つめる。 時の流れは、この砂時計と違って、ひっくり返すことはできない。 できないことがあるというだけで、どうしようもなく息苦しい。   「窮屈だ、ああ、本当に――窮屈だ」   正邪は時間という名の制約に思いを馳せる。 ただただ過ぎゆく時間、そして変わりゆく世界と環境。 それは反転の力を持つ正邪ですら、どうしようもないほどに絶対不変だ。
「過去に後悔なんてない、
別に時間を戻したいわけでもない。が……」  
だが、もしも、もしもだ。 もしも、時間の流れをひっくり返すことができるのなら。 何をするのだろう。何をしたいと思うのだろう。   「……ま、考えたところで無駄なんだが」  
そんなありもしないことを、彼女はひとり、考えていた。