紅魔館こうまかんにて、期間限定で開かれたオープンカフェ。 多くの来場客で賑わう店内で、風見幽香かざみゆうかは穏やかな時間を過ごしていた。   「真っ赤で趣味の悪いお屋敷と思っていたけど、
ここからの眺めは悪くないわね」  
紅茶の入ったカップを揺らしながら、幽香は小さな笑みを浮かべる。 彼女の視線の先にあるのは、きれいに手入れの施された庭園だ。 秋に咲く花々と、その周りを飛ぶ無数の蝶ちょうという美しい風景が、そこにはあった。
「ふふ……
いったい、誰がお世話をしているのかしら」  
きっと、楽しく話ができるに違いない――新たな出会いに胸を躍らせつつ、幽香は紅茶を一口。 妖怪などから恐れられることの多い彼女だが、今の姿からはそうした様子は見受けられない。 店員の妖精メイドたちに対しても礼儀正しい態度をとり、 その所作ひとつひとつからは優雅さがあふれ出ている。まるで、深窓の令嬢のようだ。
「また明日も来ようかしら……。 そうね、次は、
私おすすめの花を持ってきてあげましょう」  
花の美しさを理解し、その魅力を最大限生かせる者。 自然を大切にし、いたわりをもって世話をする者。 きれいに咲く花の後ろに誰かの姿が見える庭園は、彼女にとってじつに居心地のいいものだった。