色づいた木々が映える、なんということはない普通の秋日和あきびより。
厄神である鍵山雛かぎやまひなは、妖怪の山の川辺をフラフラと歩いていた。
特に目的があるわけではない。
厄を求めて歩き回っているわけでもなければ、誰かから逃げているわけでもない。
美しく染まった紅葉を眺めながら何気なく散歩をするのが、最近の彼女の日課なのだ。
「誰かに弾幕ごっこを挑まれることもない、
平和な一日……。
お祭り好きな人たちには
物足りないかもしれないけど、
こういうのも悪くはないわ……あら?」
いつものように紅葉狩もみじがりを楽しんでいた雛は、ふいにその足を止めた。
彼女の視線の先――太陽に照らされ、キラキラと輝きを放つ透明な川。
その水面みなもに、一枚のカエデの葉がふよふよと浮かんでいたのだ。
「きれいな葉……落ちてきたばかりなのかしら?」
その美しさに心を奪われた雛は、水の中に手を入れ、それを優しくすくい上げる。
「ねえ、葉っぱさん。
あなたはどこから、ここまで流れ着いてきたの?」
そして――その出所を探るかのように、色づいた木々をゆっくりと見上げるのだった。