アリスを説得し、人形たちを解放させる。 それがメディスンの目的――だったのだが。   「ど、どうして私は、花冠はなかんむりを作っているの……?」   互いの信念をぶつけ合う論争も、血なまぐさい闘争もそこにはない。 あるのは、二人の少女が一緒に花冠を作って遊ぶという、かわいらしい光景だけだ。  
「こういう遊びは人間だけのものじゃない。 人形だって、私たちと同じように遊ぶべきだわ」
慣れた手つきで鈴蘭すずらんの花冠はなかんむりを作り上げていくアリス。 この場を作ったのは、彼女の技量。 舌先三寸でメディスンを丸めこみ、一緒に鈴蘭すずらん畑で一日中遊ぶことになったのだ。   「あ、遊ぶって……
私はただ、人形たちを解放したいだけで……」   「別に、あなたの言う通りにしてあげてもいいけど 果たして、この子たちは本当に それを望んでいるのかしらね」
この子たち――上海人形たちは、楽しそうに鈴蘭すずらん畑を飛び回っている。 無理やりそう動かされているわけではない。楽しいからやっているだけ。 同じ人形だから、メディスンにはそれが分かる。   「こういう関係も、あるのね」
メディスンは、かつて地獄の閻魔えんまから言われたことを思いだした。 自分にはまだまだ知らないことが多くあるのだと。 だから、味方を作り、他人の痛みを知る必要があるのだと。 そのために、少しずつ、外の世界に出る必要があるのだと。 人形を解放することしか頭にない自分と、 使役している人形を楽しませることができているアリス・マーガトロイド。 自分たちのあいだに存在する違いは何なのか。 ――それが理解できれば、自分はもっと先に進める気がする。
「……ねぇ、アリス。
花冠の作り方を、私に教えてくれないかしら?」   「喜んで。あなたに似合う花冠を、 一緒に作りましょう?」  
この世界は、メディスンの知らないことばかり。 ――だから、ひとつずつ学んでいけばいい。