「こんにちは。本日はどうされました?」
そう言葉を放つのは、月の賢者こと八意永琳やごころえいりん。
かつては主人との逃亡生活で息をつく間もなかったが、
今ではすっかり幻想郷の住人として馴染なじんでいるようだ。
「気だるくて頭が痛い、ですか……
暖かい格好をしてゆっくり眠るのが一番です。
念のため、お薬も出しておきましょうか」
天才と言いきれるほどの頭脳を持つ彼女は、ありとあらゆる薬を作るための知識を持つ。
その能力を生かし、今までも多くの調薬を行ってきた。
それらの薬は弟子を介して里で販売され、幻想郷の人々の生活を支えている。
置き薬以外にも、怪我けがや病気で訪れた患者に合った薬を調合するなど、臨機応変に対応している。
「心配はしなくて大丈夫ですよ。
この薬を飲めば、ちゃんと治りますから。
副作用で少しぼうっとするかもしれませんが、
一日寝てください。元通りになりますよ。
弟子で治験を……いえ。ちゃんと
臨床試験済みですので、ご安心くださいね?」
ここは蓬莱ほうらいの診療所。月から逃げてきた彼女たちが、幻想郷の一員として暮らすための場所。
かつての賢者はいま、地上で一人の人間として、人の営みを支えている。