「……お月見かあ。楽しそうだなあ……
行きたいなあ。行きたいんだけどなあ……はぁぁ」
今泉影狼いまいずみかげろうは閉めきられた家の中で、それはもう大きなため息をこぼしていた。
今日の夜は満月になる。きれいな月を見るために、みんなで集まってお月見をしよう。
そう誘われた影狼だったが、どうしても人前に出られない理由が、彼女にはあった。
「今日だけは、外に出たくないのよね
……だって、見た目が……」
満月の夜は毛深くなる――それが、狼女おおかみおんなである影狼の悩みだ。
妖怪とはいえ、影狼は女の子。毛深い自分を他人に見せたくないと思うのも当然だ。
だから、こういう日は人気ひとけを避け、家に引きこもっているのが一番いい。
お月見には参加したいけれど、それで他人から笑われるのだけは、絶対に嫌だから。
「はぁ……明日になるまで
ふて寝しよう……うん?」
自分の特性を呪いつつ、布団を敷こうとしたその矢先。
何者かが、家の扉を激しく叩たたき始めた。
「もう、誰よ……はいはーい、今出まーす」
新聞の押し売りだったら吠ほえてやる、と怒りを覚えつつ扉を開ける。
そこにいたのは、彼女と親しい、そしてとても大切な友人たちだった。
「影狼ー! お月見の時間が
近づいてきたから、迎えにきたよー!」
「集合時間になっても
全然現れないんだもの。何かあった?」