今日は絶対に外には出ない。何があっても明日までは引きこもる。
そう決めていた影狼かげろうは今、一面に広がるススキ畑で、お月見に参加していた。
人里の教師と竹林の案内人が用意した簡易的なお月見会場。
長机の上には、色とりどりのお団子やたくさんのお酒が所狭しと並べられている。
「あはは! この団子はあげないわよ~♪」
そんな中、団子を片手に、野兎たちと駆け回る影狼。
さっきまでの不機嫌さはどこへやら、彼女はこの場にいる誰よりもお月見を楽しんでいた。
いったい、どんな心境の変化があったのか?
それは、今泉影狼、本人にしかわからない。
だが、周りで彼女を見守る友人たちが心境の変化のきっかけであることは確かだった。
「もう、せっかくのお月見なのにはしゃいじゃって
犬じゃなくて狼なんだから、
もっと高貴な姿勢でお月見に臨みなさいよね……」
「野兎じゃなくて私にお団子をくれないかなあ。
こっちのお皿、
そろそろなくなっちゃいそうなんだよね」
「はいはい。あなたの分は
私がとってきてあげるから」
嫌な自分を受け入れてくれる、大切な友達。
彼女たちと一緒なら、毛深い自分も、少しぐらいは好きになれる――そんな気がする。
「ふたりとも、今日はありがとね。
おかげで――お月見、すっごく楽しいよ!」
ひきこもらない満月の夜。それは影狼にとって、とてもとても新鮮な夜だった。