満月の夜になると、狼おおかみとしての本能が呼び覚まされ凶暴化する妖怪――狼女おおかみおんな今泉影狼いまいずみかげろうは、そんな危険な存在……なのだが、意外や意外、彼女は落ち着いた性格をしている。   「満月の夜に理性を失う妖怪なんて、
いつの時代の話よ。
たしかに狼に変身はするけれど、
冷静さを欠くことなんてありはしないわ」
彼女が住居を構えているのは、迷いの竹林。 人間がほとんど寄りつかない場所で、彼女は静かに暮らしている。   「案内人に頼まれて、竹林に遊びに来る
人間をおどかすぐらいはするけどね。
でも、それだけ。人を襲うことなんてないわ。
そんなことしたら、博麗の巫女みこに怒られるもの」
ニホンオオカミに変身する能力を持つとはいえ、彼女が弱い妖怪であることに変わりはない。 飛頭蛮ひとうばんや人魚などとともに寄り合いを組んで、情報共有しながら平和に暮らすぐらいが関の山。 伝説にある危険な狼女おおかみおんなは、もうこの幻想郷には存在しないのだ。   「というか、狼女じゃなくなれるなら、
私はそっちを望むわよ。
だって、その……今の私じゃ、満月になったら
……け、毛深く、なってしまうから……」
妖怪とはいえ、他人からの評価を気にする女の子。 月の力で毛深くなった自分を、他人に見られたくないと考えるのは当然だ。   「……まぁ、私が毛深くなっても
受け入れてくれる友達がいるから、
少しぐらいは自分のことを
好きになれてはいるけど……ね」