時間は有限、されどその価値は幻想郷の者によってはさまざまだ。
わずか数日の命である花、百年も生きれぬ人間、そして四桁の年を重ねる妖怪などなど。
その者の種族によって、生を享受できる時間が長いか短いかは大きく変わることだろう。
ましてや、何千年も生きれば、一日など本当にわずかな時間と感じるに違いない。
「はぁ……一瞬のこととはいえ、
一日を何もせずに過ごすのは退屈だわ」
永遠亭えいえんていのお姫様。不老不死の元月の民。
蓬莱山輝夜ほうらいさんかぐやは長く美しい黒髪をだらしなくかきながら、大きな欠伸あくびをこぼした。
「今日は永琳えいりんも鈴仙れいせんも
人里に行っちゃってるから、話し相手もいないし。
妹紅もこうは妹紅で、
寺子屋で慧音けいねの手伝いをするらしいし。
あーあ。不老不死の天敵は退屈なんだって、
もっと公言しておくべきだったかしら」
永遠の時を生きる彼女は、幻想郷の誰よりも退屈を嫌っている。
たとえ瞬まばたきするあいだに過ぎていく一日という時間だろうが、
何もせずに、ただのんびりと静かに過ごすことなど耐えられないのだ。
「誰かちょうどいい暇人はいないかしら。
……あら?」
子供のように足をバタバタさせる輝夜の視界に、白い影がふいによぎった。
それは、不老不死ではないけれど、彼女と同じく長い時間を生きている、因幡いなばの兎うさぎだった。
「……そういえば、まだあのときの恩を、
返していなかったわね」