「姫様が私を食事に誘うなんて、珍しいことも
あるもんだね。どういう風の吹き回し?」
「ふふ。いつもは永琳や鈴仙がいるから、
ふたりきりはめったにないもの。
こういうときでないと、
あなたとお話しできないなーって思ってね」
「ははっ。そんなこと言って。どうせ
暇つぶしの相手でも探してただけなんでしょう?」
「さあ、どうかしらね?
てゐの想像にお任せするわ」
竹林に住む健康長生き兎うさぎの因幡いなばてゐと、
不老不死のお姫様である蓬莱山輝夜ほうらいさんかぐや。
お互いに途方もない時間を過ごしてきたふたりは、とある料亭にやってきていた。
幻想郷のどこにあるのか、その存在は公表されていない秘密の隠れ家。
格式高そうな穴場のお店のお座敷で、少女たちはお高い料理を囲んでいる。
「ま、理由なんてどうでもいいけどね。
美味おいしいものが食べられるなら構わないや」
料理を前に舌なめずりをするてゐ。
過去にてゐに救われた、その恩を返すためのお誘いだったのだが、
輝夜はそのことをてゐに決して伝えようとはしなかった。
恩返しとは、相手に押しつけるものではない――そう考えているから。
「難しいことは考えず、好きなだけ食べて、そして
食べ終わるまで私と楽しくお話しましょう?」
「こういう贅沢ぜいたくも、たまには悪くないね。
それじゃあ、せっかくの姫様からの
ご厚意に甘えて……かんぱ~い♪」
そうして、人生の中の本当に一瞬――須臾しゅゆの時間、長くて短いふたりきりの宴うたげが始まった。