プリズムリバー三姉妹のゲリラライブに、決まった会場は存在しない。 霧の湖でやることもあれば、人里近くの森の中でやることだってある。 すべては自分たちのやりたいように。そのときの気分次第で、会場は常に変化する。 そんな彼女たちの今日のライブ会場は、とある廃洋館のエントランスだった。 窓は割れ、壁のあちらこちらに蜘蛛くもの巣が張り、明かりのない屋内はほぼ真っ暗。 演奏するにはあまりにも不向きな場所だ――が、三姉妹はとてもやる気に満ちていた。   「あなたのおかげで私たちは今、ここにいる。
感謝の気持ちを、伝えるわ……」
「音はどこまでも届くんだから。 耳を澄ませて、そして楽しんで。 大切なあなたに捧ささげる、 プリズムリバー楽団の特別ライブを」   「たったひとりのお客様。 でも、一番大事なお客様。 あなたのために貸し切ったこの会場、 今日だけは音で彩り、飾り立ててあげましょう!」
「そして一緒に奏でましょう。
あなたのパートもちゃんと用意してあるわ……」  
エントランスの中央に置かれた、誰も座っていないひとり分の椅子。 目に見えないお客様を三人で囲いながら、彼女たちは演奏を開始する。 たった一日、今日だけは、<プリズムリバー四姉妹>の大合奏だ。