あの日、レミリア・スカーレットは幻想郷中を赤い霧で包みこんだ。 その霧は多くの人間たちに影響を及ぼし、そして最後には大きな異変騒ぎとなった。   「偉大なる吸血鬼であるこの私に平伏ひれふしなさい。 今宵こよいは私の祝宴。幻想郷の夜の王が誰なのかを、
思い知らせてあげましょう」  
完全で瀟洒しょうしゃなメイド、動かない大図書館に、色鮮やかに虹色な門番。 全てを破壊する妹かいぶつを解き放つことだってできたレミリアに、敗北などあるはずがなかった。 ――あの日、幻想郷最強の巫女みこが邪魔しにさえこなければ。
「そろそろ姿、見せてもいいんじゃない? お嬢さん?」  
「やっぱり、人間って使えないわね」  
「さっきのメイドは人間だったのか」  
「あなた、殺人犯ね」  
「一人までなら大量殺人犯じゃないから大丈夫よ」
「で?」  
「そうそう、迷惑なの。あんたが」  
「短絡ね。しかも意味が分からない」  
「とにかく、ここから出ていってくれる?」  
「ここは、私の城よ? 出ていくのはあなただわ」
「この世から出てってほしいのよ」  
「しょうがないわね。
今、お腹いっぱいだけど……」   「護衛にあのメイドを雇っていたんでしょ? そんな箱入りお嬢様なんて一撃よ!」
「咲夜さくやは優秀な掃除係。
おかげで、首一つ落ちていないわ」   「あなたはつよいの?」  
「さあね。あんまり外に出して貰えないの。
私が日光に弱いから」   「……なかなかできるわね」
「こんなに月も紅いから、本気で殺すわよ」  
「こんなに月も紅いのに」  
二人の少女は視線を交錯させ――そして互いに弾幕を展開する。   「楽しい夜になりそうね」  
「永い夜になりそうね」