あの日、地下から出てきたことで、真の幸せをつかみ取ったフランドール。
だが、自分の力だけで外の世界に足を踏み入れたわけではない。
部屋の外に出るきっかけとなったあの日があるから、今のフランが存在する。
「ま、感謝ぐらいはしといてやろうかしら」
気恥ずかしさから、今まで伝えていなかった言葉。
それを伝えるべき相手を、フランは知っている。
「言葉にするのは格好良くないし……
文字でいいかしら、それもすぐ消えるやつ」
それは誰かに対する言い訳か、自分を納得させる理由づけか。
フランは席を立つと、軽やかに指先を動かし、壁――ではなく、宙に向かって文字を書いた。
「これが、私の気持ち。たった一度の感謝だから、
早く見ないと消えちゃうわよ?」
そう言い残すと、フランは満足げな表情を浮かべながら、軽い足取りでテーブルへと戻っていく。
宙に浮かんだ短い言葉。
そこには、こう書かれていた。
『Thank youありがとう.
あの日、私の世界を壊した運命あなた』