竹の中から現れた、かわいいかわいいお姫様。
とある老夫婦はそんな彼女をたいそうかわいがり、立派な淑女へと育て上げた。
お姫様は数多くの求婚を断り続け、ついには老夫婦にお礼を告げ、
月へと帰ってしまった――そんな、ありきたりな昔話。
――しかし、その話の裏側には、ひとりの少女の物語が存在した。
月とは何も関係ない、地上で生まれ育った貴族の娘。
だが、父が月のお姫様に恥をかかされたことで、彼女の人生は大きく傾いてしまう。
少女は、父を愚弄ぐろうした女が許せなかった。
だから、女が残していった不老不死の薬を奪い、飲みこんだ。
その瞬間から、少女は人間ではなくなり、そして永遠を過ごすこととなる。
復讐のために選んだ道だ。そこに後悔などありはしない。
あるのは、地獄の窯のようにぐつぐつと煮えたぎる復讐心ふくしゅうしんだけ。
「人間じゃないやつを殺すんだ。
私が人間をやめるのは当然だろう?」
少女――藤原妹紅ふじわらのもこうは終わりのない時の中で、いつか必ずあの女を殺すと心に誓った。