豊聡耳神子とよさとみみのみこには、ふたりの従者が存在する。
ひとりは、風水を操り、神子と同じ尸解仙しかいせんを自称する道士物部布都もののべのふと。
そしてもうひとりは、布都の策略により尸解仙しかいせんとなれなかった亡霊、
蘇我屠自古そがのとじこである。
「布都が私にしたことを許すつもりはないが、
もう怒ってはいない。
今の幽体からだも結構気に入っているからな。
歩いても足は疲れないし、割と便利なんだぞ?」
布都と屠自古は同じ従者という立場にいながら、顔を合わせるたびに言い合いをする仲だ。
しかし、そんな彼女たちはお互いに相手のことを従者として認めている。
「布都がどう思っているかは知らないが、
太子様に対する忠誠心は私のほうが高いよ。
太子様は私にとって、とても大切な御方おかただ。
この幽体からだが消えるときまで、
私はあの人をそばで支え続けると決めている」
尸解仙しかいせんと亡霊。その在り方は似ているようでまったく異なる。
死から逃れる神子と布都は、いつか死神に地獄へと連れていかれてしまうかもしれない。
そのとき、亡霊である屠自古はひとり置いていかれる立場にある。
だが、彼女にとってそんなことはささいな問題でしかない。
「無理かどうかなんて関係ない。
どれだけ困難な道だろうが、
太子様と添い遂げるためなら……やってやんよ!」
亡霊となっても、親愛なる主にその身を捧ささげる蘇我屠自古。
彼女の忠誠心は、幻想郷げんそうきょうの住人の中でも十指に入ることだろう。