市場いちばでは、あらゆる物の所有権が失われる。
天弓千亦てんきゅうちまたはそうした無主物むしゅぶつの神であり、
市場いちばを司る存在と言っても過言ではない。  
「売買ばいばいにせよ譲渡じょうとにせよ、
物の所有権は市場いちばの神にしか操作できないのよ。
人間も妖怪もそれを理解していない者が多すぎる」
そんな千亦ちまたの前で市場いちばを荒らすのは、
無謀という他にないだろう。
  彼女がその力……『所有権を失わせる程度の能力』を使うだけで、
あらゆる物品は誰のものでもなくなるのだから。  
「市場いちばを荒らす賊め。
この神のみえざる手で、全てを失ってしまえ!」
そんな市場いちばの神、天弓千亦てんきゅうちまただが……。   「……なんでまたダメなのよ~。
カムバック私の市場いちば、うう~」  
実のところ心が折れやすく、市場や取引が失敗するとよく寝込む。 さらに市場いちばから力と信仰を得る彼女は、
市場いちばが開かれていないと大きく弱体化してしまうのだ。
  かつて飯綱丸龍いいずなまるめぐむと共同で市場いちばを開き、
最後は賊に荒らされ台無しになった時にも、数日寝込んだことがあった。
もっとも、そうして挫けても諦めることはないのだが。
「こ、今度こそきっと、
輝かしい市場いちばを開くんだから……」
  何度挫折しようと起き上がる、
脆弱ながらも不屈の精神を持った天弓千亦てんきゅうちまた
その不屈の精神によって、いつか彼女の未来は虹色に輝く……のかもしれない。