幻想郷げんそうきょうと外の世界は結界によって隔絶されている。
しかし、完全にその繋がりが断たれてしまったわけではない。
外の世界で忘れられたもの、結界が緩んだ際に誤って迷いこんでくるもの。
多種多様な物品、存在が、時折幻想郷げんそうきょうに流れ着いてくる。
そんな珍品を扱っている古道具屋こそが、
森近霖之助もりちかりんのすけが店主を務める香霖堂こうりんどうである。
「おっと、今日はもう店じまいをしようと
思っていたんだが、お客さんが来てしまうとはね。
いや、遠慮はしなくていい。最近は閑古鳥が
鳴いていたからね。好きに見ていくといい」
そう言って、霖之助は近くの棚を指し示すが、
そこには「非売品」と書かれた物品が所狭しと並んでいた。
「ああ、そう、言い忘れていた。
僕にはちょっと重い……
いや割と重めの収集癖があってね。
珍しいものを拾ってきては店に並べるんだが、
いつも手放すのが惜しくなる。
だから、売りたくないものには
こうして非売品の印をつけているんだ」
『未知のアイテムの名称と用途が判る程度の能力』を持つ彼は自分の能力を生かすために
個人で店を開いたが、そもそも商売人向けな性格ではないため、店の運営を苦手としている。
商品を客に売らずに自分のもとで保管するなどという行いを悪びれることなくやる時点で、
彼は幻想郷げんそうきょうの中でも特に客商売に向いていないのだ。
「まぁ、欲しいものがあったら言ってくれ。
それが非売品でないかぎりは売ってあげるから」