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人間の里
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十六夜 咲夜:
よく晴れた、いいお天気ですねぇ。
お嬢様、大丈夫ですか?
レミリア・スカーレット:
日傘があるから大丈夫よ。
私に構わず、好きに買い物してちょうだい。
レミリア・スカーレット:
咲夜ときたら、せっかく休みをあげたのに、
人のことばっかりなんだから。
レミリア・スカーレット:
銀食器を磨くだの、キッチンの刃物を研ぐだの、
館にいても、メイドの仕事ばっかり。
十六夜 咲夜:
ですから、こうして買い物に来たじゃないですか。
一緒に来られなくても、よかったんですよ?
レミリア・スカーレット:
ええ。ただ、あなたが何を買うのか、
ちょっと興味があったのよ。
十六夜 咲夜:
まあいいですけど。あら、あそこに売ってる薬草、
苦いことで有名な、センブリだわ。
十六夜 咲夜:
良薬口に苦しと言うから、苦ければ苦いほど
お嬢様の健康にいいはず。買っておかなくちゃ。
十六夜 咲夜:
それから……。まあ、なんて絶妙に物憂げな顔の
ぬいぐるみ。これはフラン様に差し上げましょう。
十六夜 咲夜:
こっちの分厚い日傘も、お嬢様たちを
強い陽射しからお守りするのに、ぴったりだわ。
レミリア・スカーレット:
あのねえ、咲夜。私たちのものじゃなくて、
あなたのためのものを買いなさいよ。
十六夜 咲夜:
私のための? そうですねえ。
……では、こちらの銀のナイフを。
レミリア・スカーレット:
あら、いいじゃない。でもそれ、
投げるのには、あんまり向いてなさそうだけど。
十六夜 咲夜:
それでいいんです。
これは、お嬢様に差し上げるものなので。
レミリア・スカーレット:
は? だから、自分のものを買えばって……。
というか、吸血鬼に銀のナイフなんて悪趣味ね。
十六夜 咲夜:
だって、銀のナイフならば、
決して朽ちることはないでしょう?
十六夜 咲夜:
……だから、これならば、いつまでも、
あなたのそばにいられますわ。
レミリア・スカーレット:
……ああ、本当に悪趣味ね。
わかったわよ。
レミリア・スカーレット:
その代わり、あなたは毎日、これを磨くこと。
この銀の輝きを曇らせたら、承知しないから。
十六夜 咲夜:
ええ、もちろんですとも。お嬢様。