-------------- 妖怪の山 -------------- 八雲 藍: おや、橙。おかえりなさい。 どう? 貸本屋で本は借りられた? 橙: はい、ばっちりです! 面白そうなの、選んできました。 橙: せっかくだから、藍様も一緒に読みましょう! 八雲 藍: ええ、そうしましょう。 題名は『きつねとともだち』。狐の昔話かしら。 八雲 藍: むかしむかし、山には化け狐がおりました。 化け狐は、猟師の女を化かそうとしていました。 八雲 藍: 狐は人に化け、女に近づきます。 しかし、女の話の実に面白いこと。 八雲 藍: 一緒に飯を食べ、語り合い、時を過ごしました。 そうして狐と女は、いつしか友となったのです。 橙: 友達になったんですね! 人間の友達かー。どんな話をするんだろう。 八雲 藍: しかし、楽しい日々も長くは続きません。 ある日、女に狐の正体がバレてしまったのです。 橙: えー、バレちゃったんですか? 化けるのが苦手だったのかな……。 八雲 藍: 狐は、お前が太るのを待っていたと笑いました。 しかし、女はなぜか悲しそうな顔をしています。 八雲 藍: 狐は女を食べようとしても食べられず、 一人で山へと帰っていったのです。おしまい。 橙: なんで狐は最後、女を食べなかったんだろ? ……ん? 藍様、どうかしましたか? 八雲 藍: ん? ああ、いや、なんでもないよ。 きっと狐は、お腹がいっぱいだったのね。 橙: なーんだ、そっか。ありがとう、藍様! 次は、どんな本を借りようかなー。 八雲 藍: 懐かしい。まさか、こんなかたちで 友のことを思い出すなんて。 八雲 藍: たまには、花でも供えに行こうか……。