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永遠亭
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上白沢 慧音:
すまないな、急に訪ねてしまって。
お前の師匠はいるか?
鈴仙・優曇華院・イナバ:
あらー。あいにく、出かけていったばかりよ。
なにか急ぎの用?
上白沢 慧音:
いや、ならお前で構わない。以前、お前が
里に来た時、寺子屋用の常備薬を買っただろう?
上白沢 慧音:
あの中の、頭痛薬なんだが……。
マズい苦いクサいと、飲んだ子供が泣いてしまってな。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
子供が? はあ……。
上白沢 慧音:
寺子屋で薬を飲むのは、年端もいかない子供だ。
だから、もう少し工夫はできないだろうか?
上白沢 慧音:
苦味やにおいを抑えた飲みやすい薬になると、
子供も見守る私も、とてもありがたいのだが……。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
うーん、マズくて子供が泣いた?
どうもわからないわね……。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
たしかに、今の頭痛薬はおそろしくマズいわ。
最近調合を変えて、効き目を良くしたからね。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
けど、それはあくまで大人用。子供用の薬は、
お師匠様が飲みやすい味をつけてたはずだけど。
上白沢 慧音:
……え? そうなのか?
鈴仙・優曇華院・イナバ:
ええ。だから、泣いてしまったというその子は、
間違えて大人用を飲んだんじゃないかしら?
鈴仙・優曇華院・イナバ:
それか、お師匠様が包みを間違えたか……。
でも、あの人に限って、そんなことあるかなぁ。
上白沢 慧音:
…………わ、私だ。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
はい?
上白沢 慧音:
頭痛薬を飲んだのも、味に驚いたのも、
本当は私だ……と言った。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
……え?
じゃあ、あまりのマズさに泣いたのも?
上白沢 慧音:
そ、それは作り話だ! ただ、大人の私が、
薬の味にどうこう言うのは気が引けて、その……。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
いいんですよ、言っても。いざという時、
味のせいで薬が飲めない~じゃ困るんですから。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
それじゃ、今度人里に行くときは、
貴方用に甘い頭痛薬も持っていくわね。
上白沢 慧音:
ああ。ありがたい。
それで、その。生徒たちには、このことは……
鈴仙・優曇華院・イナバ:
はいはい。慧音先生は、かっこつけのウソなんて、
ぜーんぜんついてません!
鈴仙・優曇華院・イナバ:
ま、ウソをつくと、ろくなことにならない。
いい薬になったんじゃないですか? 先生。
上白沢 慧音:
ああ。おかげで、よく効いたよ。
ずいぶん苦い薬だったがな……。