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妖怪の山
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伊吹 萃香:
っはぁ! 昼間から呑む一杯、最高!
なんだか、ごろーっとしたくなってきたな~。
八雲 藍:
ええと、紫様の言いつけでは、あと……。
伊吹 萃香:
あっ、あんたは……、紫の式神の狐。
いいところに!
伊吹 萃香:
ちょうど、いい感じの枕がほしかったんだよ~。
そのもふもふの尻尾、ちょっと使わせてくれない?
八雲 藍:
なっ、いきなり触るな!
九尾の狐の尻尾を、枕になどと……
八雲 藍:
それをしていいのは、
この世でご主人様……紫様、ただお一人だけだ。
伊吹 萃香:
むしろ、紫ならいいんだ。……ま、いいや。
だったら、せめて酒盛りに付き合ってよ。
八雲 藍:
お断りだ。今は、我が主人から仰せつかった
大事なお使いの最中。寄り道をしている時間はない。
伊吹 萃香:
え~、つれない堅物だなぁ。もぐもぐ……。
おおっ、この油揚げ、これぞ絶品!
八雲 藍:
(なんて香ばしい香り……ハッ!
駄目よ。こんな誘惑に、心を乱されては)
伊吹 萃香:
ああ、美味しい! これ、評判の店で
買ってきたやつなんだよね。お酒とよく合うなぁ。
八雲 藍:
(くっ……、平常心平常心。ここで平静を
保てないなんて、式神失格……!)
伊吹 萃香:
そろそろ、一杯やりたくなったんじゃない?
たまには自分に正直になりなよ。
八雲 藍:
何を言ってるのか、さっぱりわからんな。
私は酒盛りになんぞ、まったく興味はない。
伊吹 萃香:
あんたの尻尾は、そう思ってないみたいだけど?
私が油揚げを食べるたび、ぴくぴく動いてるよ~。
八雲 藍:
っ~~~!! そ、そんな。
式神にあるまじき失態……。
伊吹 萃香:
まあまあ。自分の欲があるのも、悪くないじゃん。
いくら紫の式神でも、あんたはあんたなんだから。
伊吹 萃香:
自発的に行動できるよう、成長してほしい。
たしか、紫もそう言ってたよ、あんたのこと。
八雲 藍:
ゆ、紫様が……!?
八雲 藍:
……いえ、今はやめておく。
しかし日を改めて、ぜひご一緒させてもらえるだろうか。
伊吹 萃香:
そうこなくっちゃ! 私はいつでも大歓迎だよ~。
……ちなみに、もふもふの尻尾枕のほうは?
八雲 藍:
お断りだ。
伊吹 萃香:
残念。それはやっぱり紫の特権かぁ~。
はい、お土産。酒と油揚げ、包んどいたから。
八雲 藍:
なんと粋な計らい、ありがたい!
……はっ、つい長話を。私は、そろそろ……。
伊吹 萃香:
はーい、じゃあまた。お仕事頑張ってね~。
終わったら、ご褒美が待ってると思ってさ。
伊吹 萃香:
あ、尻尾、すっごく動いてる。
よっぽど好きなんだなぁ、油揚げ……。