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人間の里
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射命丸 文:
はぁ。今日も人里は平和そのもの、と。
甘味でも食べていこうかしら……って、あら?
犬走 椛:
ごちそうさまでした! ふぅ~、美味しかった。
おなかいっぱいで、もう動きたくないわ。
犬走 椛:
でも、この後は服と小物を見にいきたいし……。
せっかくの休日だもの、満喫しないとね♪
射命丸 文:
おやおや、白狼天狗の椛さんじゃないですか。
まさか、こんな所で会うなんてね。
犬走 椛:
うわっ、貴方は……!
ええ、本当に奇遇ですね。
犬走 椛:
さっさと、どこかに行ってくれませんか?
休日に、鴉天狗の顔は見たくありませんので……。
射命丸 文:
なら、そこをどいてくれる?
取材の休憩がてら、甘味を食べに来たのよ。
犬走 椛:
ああ、そうでしたか。いいですねぇ、鴉天狗は。
仕事の合間に、こんな贅沢ができて。
射命丸 文:
ええ。貴方たちが日頃、山を守ってるおかげよ。
たまの休日くらい、山の外を満喫するといいわ。
射命丸 文:
まったく、顔を合わせると、すぐこれね。
でも、休日の白狼天狗かぁ。ふむ……。
犬走 椛:
わぁ。この髪留め、かわいいなぁ。
あ、こっちもステキ! うーん、迷っちゃう~。
射命丸 文:
店員さん、すみませーん。
これとこれ、ください。あと領収書も。
犬走 椛:
ちょっと、いま撮らなかった!?
っていうか、なんで貴方がここにいるのよ!
射命丸 文:
このお店の記事を書こうと思ってね。
いやー、また会うとは、偶然偶然。
犬走 椛:
ほ、本当に偶然なの……?
とにかく、これ以上、私に近づかないで……。
里の人間A:
キャーーー!!
ひったくりよ! 誰か捕まえてーーー!!!
犬走 椛:
この声……向こうの路地からね。
たいへん、行かなくちゃ!
犬走 椛:
ひったくり犯は……あそこね!
逃がさないわッ!!
ひったくり犯:
ぐあっ!
く、くそ……逃げ切れると、思ったのに……。
犬走 椛:
……ふぅ。犯人は捕らえました。
奪ったものは、これかしら?
里の人間B:
おお、なんと鮮やかな!
あの一瞬で犯人を捕らえるなんて、すごいじゃないか!
里の人間A:
ありがとうございます。たいへん助かりました!
犬走 椛:
いえ、当然のことをしたまでです。
里の平和のため、悪者は放っておけませんからね。
射命丸 文:
まさか里にひったくりが出るなんて。
これは、いい記事が書けそうね。しかし……。
射命丸 文:
「腑抜けた白狼天狗の一日!」って
記事を書くつもりだったのに、まさかこんなことになろうとは。
射命丸 文:
やれやれ。これじゃ想定とは、真逆の内容だわ。
なんか釈然としないけど、まあいっか……。