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里へ向かう山道
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鍵山 雛:
あ、待って。貴方、荷物を忘れて……って、
窓から花瓶が!? 危ない!
里の人間:
ぎゃー! これだから、厄神なんかに関わると
ろくなことがない! えんがちょ!
鍵山 雛:
はあ。また厄に巻き込んじゃったわ。
私には、どうにもできないんだけど……。
水橋 パルスィ:
さっきから黙って見ていれば。
貴方、人間にそんな扱いされて、恨まないの?
鍵山 雛:
恨む? いえ、仕方のないことだもの。
私の厄が不幸を呼ぶのは事実だし……。
鍵山 雛:
それに、私にとって厄は力の源でもあるから。
人間たちとは、上手く共生しないとね。
水橋 パルスィ:
奇遇ね。私は人間の嫉妬心から力を得ているの。
私たち、似た者同士の嫌われ者ってわけね。
水橋 パルスィ:
誰かなしでは生きていけないのに、
近づくと石を投げられる。貴方もそうでしょ?
鍵山 雛:
そうね、もう慣れたものだけど。
……ええと、雛人形は、もう手持ちがないか。
水橋 パルスィ:
ん? 急に針なんて取り出して、
何を始める気?
水橋 パルスィ:
同族嫌悪? 私みたいなのと
一緒にされたくないから戦おうってわけ?
鍵山 雛:
いいえ。さっきの人間、元から
ずいぶんと厄を溜め込んでいる気配があったわ。
鍵山 雛:
荷物を置いて行っちゃったし、探して届ける時に、
雛人形も渡そうと思って。今から作るのよ。
水橋 パルスィ:
まったく、貴方、とんでもないお人好しね。
その綺麗な心が妬ましいわ。
水橋 パルスィ:
……で、雛人形って、どうやって作るの?
鍵山 雛:
えっ……?
興味が、あるの?
水橋 パルスィ:
貴方ひとりで全部作るのは大変でしょ。
人探しのほうもあるんだから。
鍵山 雛:
ふふ……私の心が妬ましいとか言うけど、
貴方も本当は優しいんじゃないの、橋姫さん。
水橋 パルスィ:
いいから、さっさとその針と布を渡しなさい。
里の人間:
おや……この荷物と雛人形は。あの厄神が
届けてくれたのか? あの時は悪いことしたな。
里の人間:
この雛人形、さすがプロの出来栄えだな!
不格好なのも、ちらほら混ざってるが……。