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妖怪の山
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鍵山 雛:
……だから、ここから山に入るのは諦めて。
人間が不用意に立ち入っていい領域じゃない。
鍵山 雛:
ただでさえ、この先には危険な神がいるのよ?
人里に戻って、索道を使いなさい。
鍵山 雛:
……はあ。迷い込んだ人間を追い返すの、
なんだか久しぶりね。
洩矢 諏訪子:
ねえねえ。
さっき言ってた危険な神って、私のこと?
鍵山 雛:
……な!? い、いつの間に。
そ、そういうわけじゃあ……、ある、わね……。
洩矢 諏訪子:
別に、慌てなくていいって。
お疲れ様って言いたくて、出てきただけだから。
鍵山 雛:
それはありがとう。
本当に、今日はなんだか大忙しなの。
鍵山 雛:
樹海に来る人間が、妙に多くてね。人里に
索道ができてからは、減っていたのに。
洩矢 諏訪子:
ああ、それはうちの神社でお祭りがあるからじゃない?
索道が大混雑で、待てなかったのかも。
鍵山 雛:
なるほどね。どうりでみんな、
やたらと浮かれてると思ったわ。
洩矢 諏訪子:
ていうか、貴方、いつもこんなことしてるの?
厄も集めて渡してくれるしさ~。
洩矢 諏訪子:
守矢の神として、
たまには労わなきゃって気になってきたよ。
鍵山 雛:
私はそう存るものだから。それに、好きで
やっていることだもの。貴方が気にすることじゃないわ。
洩矢 諏訪子:
う~ん、それでも何か……。あっ、そうだ!
せっかくだし、これから一緒にお祭りに行かない?
鍵山 雛:
ええっ、私と貴方が?
洩矢 諏訪子:
そうそう。お祭りの別名って知ってる?
『神遊び』だよ。
洩矢 諏訪子:
つまり、神が人間と楽しく遊ぶ日なの。
だったら、厄神がそれに加わってもいいでしょ?
鍵山 雛:
素敵ね。それじゃ、お言葉に甘えようかしら。
でも、またここに人間がやってくるかも……。
洩矢 諏訪子:
そっか、行く前に一仕事しとかなきゃね。
え~っと、こうして立て札をちょちょいっと。
洩矢 諏訪子:
『この先の山、人間が足を踏み入れると
危険な神が祟っちゃうぞ』っと。
鍵山 雛:
それなら私も。
『厄神の災いも降りかかる』と……。
洩矢 諏訪子:
『神社への御用は、人里の直通の索道を
ご利用ください!』……これでよし!
洩矢 諏訪子:
じゃ、行こっか!
完璧におもてなししちゃうよ~!
鍵山 雛:
ふふ、わくわくするわね。
今日は、楽しい神遊びで……。
洩矢 諏訪子:
厄神遊びっ!
くたくたになるまで、満喫しちゃおう!