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妖怪の山
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永江 衣玖:
総領娘様が、また何か企んでいると、
天界で噂になっているようですが……。
比那名居 天子:
緋想の剣よ!
大地に恵みの雨をもたらせ!
永江 衣玖:
……総領娘様。
いったい何をなさっているんですか?
比那名居 天子:
あら、衣玖じゃない。
何を隠そう、梅を育てて酒を作るつもりなの。
永江 衣玖:
梅ですか?
果実栽培に手を出すとは、どういうきっかけで?
比那名居 天子:
人里で呑んだ、梅酒に感動してね。
梅の木を持ち帰って、育てようとしたら……。
比那名居 天子:
案の定、天人たちに注意されて、
こうして地上の土を耕してるというわけよ。
永江 衣玖:
悪い企みじゃなかったのは、一安心です。
永江 衣玖:
ところで、この梅が無事に育ったら、
剣は返してくださいね。
比那名居 天子:
はいはい。
もっとも、無事に育つかはわからないけど。
永江 衣玖:
早く任務を終わらせたいので、私も手伝います。
まずは、この土地をどうにかしないと……。
比那名居 天子:
大地よ、震えよ!
雨よ、大地を潤せ!
永江 衣玖:
整地の次は、梅の木を植えてっと……。
えっさ、ほいさっと。
比那名居 天子:
しかし、あの農民の話はタメになったね。
土に適切な水分量があるなんて。
永江 衣玖:
農作業はコツがいるらしいですが、
総領娘様は、それ以前の話だと思いますけどね。
比那名居 天子:
ん? この枝、しおれてるじゃない。
たしか、こういうときは……。
永江 衣玖:
立ち枝を取り除く、と言ってました。
協力して、伐っていきましょう。
永江 衣玖:
これで大丈夫です。……大地を操っての栽培、
まるで、天地開闢ですね。
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数日後
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永江 衣玖:
わぁ、青々とした梅の実をつけています!
私と総領娘様の、努力の賜物ですね。
比那名居 天子:
あっはは! この私が苦労したからこそ、
いい梅ができたはずよ。
比那名居 天子:
そうだ、この梅は『天空梅』と名付けよう!
桃に変わる、新たな天界の恵みのひとつとなるだろう!