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天界
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永江 衣玖:
さてと、今日の地震の予兆は……。
射命丸 文:
こんにちはー!
「文々。新聞」の、射命丸文です!
永江 衣玖:
なんっ! ……でしょうか。天狗のみなさまは
いつも急ですね。どのようなご用件でしょう?
射命丸 文:
実はこのたび、うちの新聞に
地震予報コーナーを新設しようと思いまして。
射命丸 文:
ぜひ、あなたに記事の執筆を依頼したく!
永江 衣玖:
わかりました、引き受けます。
射命丸 文:
それでですね~……って、ええ!?
二つ返事ですね!?
永江 衣玖:
だって、楽じゃないですか。
家にいながら、地震の警告ができるのでしょう?
射命丸 文:
そ、そうですが……。まあ、乗り気ならいいか。
ではさっそく、予報記事を作ってみてください。
永江 衣玖:
ふむ……。これでどうでしょうか?
「三刻のち地震あり。山より五間の範囲注意せよ」
射命丸 文:
ふむふむ。ちょっと無機質すぎますが、
まあ予報ですし、こういうものでも……。
永江 衣玖:
いや、これでは読者に伝わりづらいですね。
もっとわかりやすくしなければ。
射命丸 文:
は、はい?
永江 衣玖:
少し柔和な言い回しにしてみましょう。
「山で地震があります。ご注意ください」
永江 衣玖:
さらにわかりやすくなるよう、図の解説と、
ナマズの絵を足しました。どうでしょうか?
射命丸 文:
え、ええっと……。
永江 衣玖:
いえ……、これではまだ興味をひけないかしら。
では、こういうのは…………。
射命丸 文:
は、はあ…………。
永江 衣玖:
……ふう。
思いのほか、長くなってしまいました。
永江 衣玖:
でも、これでようやく、
完璧な予報記事ができました。どうぞ。
射命丸 文:
あ、ようやくですか……。ありがとうございます。
では、こちらお預かりします。
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1か月後
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射命丸 文:
朗報です! 愛くるしいナマズの絵と
わかりやすい文章が、読者に大人気ですよ!
永江 衣玖:
本当ですか? よかった。これで、
小さな地震くらいなら私が出向かずとも……。
射命丸 文:
次の雑誌では、コラムの執筆もお願いしますね!
それと、人里から地震についての講演依頼が!
永江 衣玖:
え、ええぇ? 楽をしたかったのに、
なんか、かえって忙しくなっちゃったわ……。