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博麗神社
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比那名居 天子:
宴会でどんちゃん騒ぎもいい、
こうやって、静かに晩酌ってのも悪くないな。
博麗 霊夢:
……へえ。あんたがそんなこと言うなんて、
ちょっと意外ね。
比那名居 天子:
そうか? 私は心の機微にも聡いし、そういう
繊細な情緒だって、持ち合わせてるんだぞ。
博麗 霊夢:
繊細なくせに、ド派手に神社を壊したのは
どこの誰だったかしら?
比那名居 天子:
あっはは! でもこうして、ちゃーんと
建て直したんだから、いいじゃない。
博麗 霊夢:
……もう壊さないでよね。
比那名居 天子:
どうかなあ。果てのない退屈と、
脆くて壊れやすい、地上の物たちが悪いんだ。
博麗 霊夢:
相っ変わらず、上からの物言いね。
壊れやすいからって壊していいわけじゃないわ。
博麗霊夢:
あっ、こんな所にアリが……。ほら、
潰される前に、早くどっか行っちゃいなさい。
博麗霊夢:
……ねえ。あんたにとっては、地上人なんて、
このありんこと、同じようなもんなんでしょ。
比那名居 天子:
……うーん。
そうと言えばそうだし、違うと言えば違うな。
博麗霊夢:
ん? どういうことよ。
比那名居 天子:
力の差では……そうだな、月とすっぽんならぬ、
月とありんこレベルだけど。
比那名居 天子:
人はアリと違って、言葉を交わせるでしょ?
意志の疎通、つまりは想いを交わせるってわけ。
比那名居 天子:
不思議だよ。たったそれだけのことで、
愛着がわいちゃうんだから。
博麗 霊夢:
……愛着、ねえ。
比那名居 天子:
そうだ。お前だって、このアリと話せたら、
踏みつぶそうとは思わないだろう?
比那名居 天子:
溺れていたら、すくい上げるかもしれないし、
友として、月を肴に晩酌することだってある。
博麗 霊夢:
とかなんとか言ってるけど、あんたは
そのアリの巣をぶっ壊したでしょうが。
比那名居 天子:
壊したアリの巣を、わざわざ作り直すくらいには
気に入ったってことだ。
博麗 霊夢:
よく言うわ。
自分から進んで直したわけじゃないくせに。
比那名居 天子:
今だったら、自発的に直すかもしれないぞ?
比那名居 天子:
こうやって、ゆったり酒を酌み交わす場所も、
人も、無くなるのは惜しいからな。
博麗 霊夢:
結局、自分本位なのね。
……ま、そういうとこ、あんたらしいけど。