-------------- 人間の里 -------------- 比那名居 天子: おーい、女苑。 材料の桃、工場に運んでおいたよ。 依神 女苑: ありがと。これで今すぐにでも、 『桃の天人水』の増産を始められるわ。 依神 女苑: (しめしめ。私の散財させる力。  あの天人に、相変わらず効いてるみたいね) 依神 女苑: (黙ってても、天界の桃を持ってきてくれる。  それを加工して売るだけで大金持ちよ) 比那名居 天子: ああ。それと『桃の天人水』を買ったやつらが、 クレームを言うために、工場へ詰めかけてたな。 依神 女苑: ……は? 比那名居 天子: 天人の力が手に入るって触れ込みなのに、 飲んでも何も変わらないし、味もマズいってさ。 比那名居 天子: 返金しろ、とも言ってた。 ま、確かに飲めたもんじゃないからね。 依神 女苑: なんで!? ちゃんと天界の桃を使ってるし、 最初に売った分は、評判もよかったじゃない! 比那名居 天子: なんでって……。そりゃ、当然だよ。 途中から、天界の桃を使ってないもの。 依神 女苑: はぁああああっ!? 比那名居 天子: 天人たちの目が厳しくなって、 天界から桃を持ち出せなくなったんだ。 比那名居 天子: それで仕方なく、季節外れのマズい桃を 里の農家から買い占めたわけさ。 依神 女苑: なんで? なんで、そんなことするのよー!? あんたなんかに、力を使うんじゃなかった……。 比那名居 天子: なるほど。天界の桃だけを集めるはずと踏んで、 私に散財させる力を使ってたのか。 比那名居 天子: しかし、私は天界の桃を入手できなくなると、 地上のマズい桃を、勝手に買い占めだした。 比那名居 天子: 散財させる力が効いている以上、価値が低い 地上の桃には、見向きもしないはずなのに……。 依神 女苑: そうよ! そうじゃなきゃ、 話のつじつまが合わないじゃない! 比那名居 天子: 天界の桃は、地上の桃より優れてる。 それは私だって認める。 比那名居 天子: でも、天界の桃に対して、 私が価値を感じているかは、まったく別の話だ。 依神 女苑: ……へ? 比那名居 天子: 私にとっては、天界の桃も地上の桃も、 どちらも同じ桃に過ぎないのさ。はっはっは! 依神 女苑: 笑いごとじゃないわよ! 工場の建設費、河童に催促されてるのに! 比那名居 天子: 短気は損気。そう怒るなよ。 比那名居 天子: 天界の桃を使った天人水が、2本だけ残ってた。 これでも飲みながら、さっさと退散しよう。 依神 女苑: ちゃんと作れば、こんなおいしいのに……。 こうなったら、地の果てまで逃げてやる~!