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寺子屋
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豊聡耳 神子:
今日は招いてくれて礼を言うよ。
現代の学問にも興味があったからね。
上白沢 慧音:
こちらこそ、授業の手伝いを引き受けてくれて、
ありがたい。感謝するよ。
上白沢 慧音:
本物の聖徳太子と聞いて、ぜひ話を聞きたいと
思っていたんだ。それで、どんな話をする気だ?
豊聡耳 神子:
期待に応えて歴史の話を……と思ったが、
今日は、『コウモリの視界』という話をしよう。
上白沢 慧音:
ほう。たしか、コウモリの飛び方を知っていても、
空を飛ぶ時の感じ方はわからないという話だな。
豊聡耳 神子:
左様。私たちは、コウモリがどう飛んでいるか、
知識として知ることができるが……、
豊聡耳 神子:
しかし、コウモリにとって『飛ぶ』とは、
『歩く』のか『泳ぐ』のか、その感覚はわからない。
豊聡耳 神子:
コウモリではない者に、コウモリの感覚を
理解することは決してできない、という話だ。
豊聡耳 神子:
つまり私たちは、自分以外の他人の気持ちなど、
絶対にわからない。というわけさ。
上白沢 慧音:
なるほど。相手の感じ方がわからない以上、
相手のすべてを知ることは確かに不可能だな。
豊聡耳 神子:
そうだ。他人のことは、他人しかわからない。
相手の話が本当か、判別することさえも不可能。
豊聡耳 神子:
私は、人の本質を聞ける耳がある。
しかし、それさえ真実なのかは、わからない。
豊聡耳 神子:
君が上白沢慧音であると伝えられても、
それが真実かを確かめる方法はないのだ。
上白沢 慧音:
……なにが言いたいんだ?
豊聡耳 神子:
君が何者か知る術がないなら、
私の目の前にいる君はいったい、何者だ?
上白沢 慧音:
私は、上白沢慧音だ。
幻想郷の歴史を編纂し、人間を守る。
上白沢 慧音:
たとえ存在を疑われようとも、真実はただ一つ。
それだけだ。
豊聡耳 神子:
なるほど、それが君の考え方か……。
頼もしい限りだ。
豊聡耳 神子:
いや、問い詰めるような真似をして悪かった。
この話をしたのには、理由があってな。
豊聡耳 神子:
里は平和だが、人々の危機感は薄い。だから、
不気味な話で、皆の意識を高めようと思ってな。
上白沢 慧音:
そうだったのか。あなたも人が悪い……。
豊聡耳 神子:
だが、素晴らしい答えであった。
君のような人物がいるのなら、里も安心だな。